そり舌の音が少ないのは、台湾の中国語の特徴のひとつとしてよく知られていますが、それはこんな単語の字幕にまで反映されています。
(画像はYouTube三立華劇ep6からお借りしました)
我想去哪就去哪僕の好きなところに行くんだよ |
まだ仲良くなる前の二人が仕事の下見に出かける場面です。本当は好意を持っているのに、憎まれ口を叩き続ける主人公の男性。
この「哪」は「どこ」という意味で使われています。以前にも紹介した同じ疑問詞をふたつ並べて、その疑問詞の答えが同じ物事を指す、という文型ですね。
<我想去A⇒我們去A>
という関係。「僕が行きたいところ=僕たちが行くところ」となります。
実はこのスクリーンショットを撮った時は、この文型の復習が目的でした。でも、記事を書き始めて、別のことが気になってきたのです。それは「どこ」が「哪」だけで書き表されている点です。
中国の中国語(普通話)なら「哪儿(兒)」と書いて、最後をそり舌にするところですね。
そり舌の音の少ない台湾では、こんな単語でも舌を巻かずに発音するのですが、それが字幕にも反映されているとちょっと違和感があります。でも、他の場面でも、「在哪?(どこにいるの?)」のような字幕はたくさん出て来るのです。
中国で「事儿(兒)」「一点儿(兒)」と発音されるものも、台湾では「儿(兒)」を落として発音します。だから、文字にする時もこの「儿(兒)」は書きません。
この二語は、「儿(兒)」を落としても意味が変わらないので、中国普通話でも、文章語になるとしばしば「儿(兒)」が落ちます。会話で「儿(兒)」をつけている人でも書く時には落として書くのは普通です。でも、「哪儿(兒)」と「哪」は一般的には違う言葉と考えらているので、少なくとも現代語では「儿(兒)」を落として書くことはありません。
前回もご紹介したように、台湾華語の教科書の定番である「視聴華語」が2017年に改定され、それまでの北京風の発音が、より台湾の民間の発音に近いものになりました。特に「儿(兒)」がずいぶん減っているのが目立ちます(でもまだまだたくさんあります)。
「這兒,那兒,哪兒」は全て(多分)「這裡,那裡,哪裡」に書き換えられました。
でも、台湾の人が「ここ、そこ、あそこ、どこ」を全て「這裡,那裡,哪裡」で表すかというとそうでもなく、「這兒,那兒,哪兒」の「兒」を落として発音することも結構あるのです。
それは、中国普通話で「这里,那里,哪里」と「这儿,那儿,哪儿」が両方使われるのと同じことですね。
発音が気になる方は第6話の36分ぐらいから聞いてみてください。このセリフを喋っている主役の唐禹哲はもちろん台湾出身です。
(2018.6.19)