今回はまるで刑事ドラマのようなセリフです。注目したのは”跟 gēn”の使い方。
(画像はLINE TVからお借りしました)
大哥 麻煩幫我跟那台車
運転手さん、すみませんがあのバイクをつけてください
お客さんのところに向かうタクシーの中から、バイクに乗ったその人を見かけた主人公。様子が普通じゃない気がして心配になり、運転手さんに追いかけるようにお願いしています。
最後の”車”を「バイク」と訳したのは、この流れがあるから。日本語で「車(くるま)」と言えば、普通は自家用車を思い浮かべますね。これに対し、中国語の”車 chē”は”~車”の総称。文脈によって”機車 jīchē(バイク)” ”公車 gōngchē(バス)” ”火車 huǒchē(汽車、列車)”等の可能性もあるので要注意です。
さて、ここからが今日の本題。”跟”の使い方として、普段教科書でよく見るのは、次のような例ですね。
①這個跟那個不一樣。Zhè ge gēn nà ge bù yíyàng.(これとあれは違う。)
②我打算跟他一起去。 Wǒ dǎsuàn gēn tā yìqǐ qù. (彼と一緒に行く予定だ。)
③那件事,你跟他說了嗎?Nà jiàn shì, nǐ gēn tā shuō le ma?(あの件、彼に言った?)
一般には、①は接続詞、②③は介詞に分類されますが、実は”跟”にはこのセリフのような動詞の使い方もあるのです。意味は「後について行く」です。
中国語の介詞は、英語の前置詞に似たような働きをしますが、大きく違うのは、その多くが動詞の用法から派生したものだという点です。次の例を比較してください。
④動詞の”用”:你可以用這台電腦。Nǐ kěyǐ yòng zhè tái diànnǎo. (このコンピュータを使ったらいいよ。)
⑤介詞の”用”:我可以用日文寫嗎?Wǒ kěyǐ yòng Rìwén xiě ma? (日本語で書いてもいいですか。)
⑥動詞の”到”:我們已經到了。 Wǒmen yǐjīng dào le.(私たちはもう着きました。)
⑦介詞の”到”:我明天要到高雄去。Wǒ míngtiān yào dào Gāoxióng qù.(明日は高雄に行きます。)
”跟”が介詞になった後も、次のような「~から習う」という言い方には、「後について行く」という元の動詞の意味が色濃く残っていますね。
⑧我的韓文是跟李小姐學的。Wǒ de Hánwén shì gēn Lǐ xiǎojiě xué de.(私の韓国語は、李さんから習ったものです。)
こういう例を、「李小姐と学ぶ」と誤訳してしまう人が時々いますので、注意してください。
中国語では、ある単語が複数の品詞の用法を持つのは、ごく普通です。単語そのものの品詞はあまり固定されておらず、文の中でどのような働きをしているかによって、その品詞が決まるとも言えるでしょう。
動詞の”跟”の用法は、初級・中級までの教科書ではほとんど出てきませんが、ドラマ等ではよく出てきます。「ストーカー」を表す”跟蹤狂gēnzōngkuáng”の”跟”も、同じ「後をつける」ですね。
タクシーの運転手さんに「あの車つけて」という場面は、映画やドラマによく出てきますが、実際にそうお願いしたら本当につけてくれるのかなあ、というのが昔から気になっています。もし、本当にそんな経験のある方がいらしたら、ぜひ結果を教えてください。
(2021.8.17)