“頭痛(頭が痛い)”と“肚子痛(お腹が痛い)”は似たような形に見えますが、実は次のような違いがあるのです。いったいなぜなのでしょう?
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【ヒント】“頭痛”には、二つの意味があります。
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【解説】 |
「頭が痛い」を中国語にすると“頭痛tóu tòng”。これに、形容詞によくつく“很”を加える場合、次の二か所のどちらでもOKです。
A.形容詞の前
①我頭很痛。Wǒ tóu hěn tòng.
B.名詞の前
②我很頭痛。Wǒ tóu tòng.
中国語の文法をちゃんと勉強している人なら、「②はちょっと変じゃないの?」と思うかもしれませんね。副詞の“很”は、形容詞や一部の動詞の直前にしか置けないという原則を知っているから。
一方、“肚子痛(お腹が痛い)”の方は、その原則通りAの位置(形容詞の前)にしか置くことができません。
A.形容詞の前
③我肚子很痛。Wǒ dùzi hěn tòng.
B.名詞の前
④我很肚子痛。(×)
この違いを理解するヒントは、①②の意味の違いにあります。
日本語の「頭が痛い」は、病気等で本当に痛みを感じている場合だけでなく、比喩的な慣用句として「悩んでいる」「困っている」状態を表すこともできますね。
中国語の“頭痛”も同じように二通りの意味を表しますが、Aの位置に“很”を入れて①のように言うと、主に身体的な痛みを表すことになります。時には、大きな悩みを抱えていてそれが身体症状にまで現れてしまったり、自分でもそれが精神的なものなのか身体的なものなのかよくわからないこともありますが、そういう状態も①で表すことができます。
一方Bの位置に“很”を置いて②のように言えるのは、精神的な問題を言う場合にほぼ限られています。高熱で本当に痛みを感じている場合には②が使えないのです。“頭痛”が本来の意味から離れて比喩的に使われ、形容詞の性質をもつひとつの単語のように変化しているからこそ、“很”をこの位置に置けるのだとも言えるでしょう。
これに対して、“肚子痛(お腹が痛い)”には、このような一語化した比喩的な意味がありません。そのため、身体的な症状を表すAの形にしかならないのです。
同じ理由で、“胃痛”ならABどちらの形にもすることができます。
A.形容詞の前
⑤我胃很痛。Wǒ wèi hěn tòng.(私は胃が痛い。)
B.名詞の前
⑥這部劇的結局很胃痛。Zhè bù jù de jiéjú hěn wèi tòng.(このドラマの結末には胸が締め付けられる。)
⑤は胃に本当に痛みを感じている場合や、ストレスで胃が痛くなりそうな場合に使います。大きな試験の前などに“緊張到胃很痛(胃が痛くなるほど緊張している)”と言うこともあります。
⑥の方は比喩的な用法で、ドラマやアニメのストーリーについて表現する時に使います。「登場人物に感情移入してしまい、その人物に不幸や災難が降りかかった時に、自分まで切なくなったり辛くなったりするような作品」という意味です。アニメファンの間で使われる“胃痛番wèitòngfān(“番”は日本語の「番組」の略)”という言葉もあり、日本では「鬱アニメ」「悲劇アニメ」のようなジャンルに分類される作品を指すことが多いようです。
なお、この意味で使う場合も“我很胃痛。(×)”とは言いにくいそうです。
“耳根子軟(他人の言葉に振り回されがちだ)”もBの形にして次のように言うことがあります。
⑦他很耳根子軟。Tā hěn ěrgēnzi ruǎn.
“耳根子軟”という四文字になっても、比喩的な意味を持つ慣用句ならひとつの言葉のように扱えるところが面白いと思いませんか?
注)「“很頭疼”は言えるけれど、“很肚子疼”は言えない」という記述は、『中国語とはどのような言語か(橋本陽介/東方書店)』にもあります。(中国では“疼”がよく使われますが、台湾では“痛”の方がよく使われます。)