ひとつの言葉を見聞きした時に思い描くことが、ネイティブと非ネイティブの間で少しずれているのはよくあること。そのずれをみつけるのも、外国語学習の楽しさなのかもしれませんね。例えばこんな言葉。

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【ヒント】「5000名以上」と訳すとニュアンスが変わる。
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【解説】
台湾華語の教科書の定番、「実用視聴華語1」に次のような例文が出てきます。
①我們學校有五千多個學生。
これ、いったいどう訳したらいいのでしょうか?日本人の学習者に、何も説明せずにチャレンジしてもらうと、一番多いのはこんな訳です。
②私たちの学校には、五千名以上の学生がいます。
ところが、①と②からイメージする数を図示してみると、上のようにずいぶん差があるのです。中国語の「多(duō)」の方は、5001~5999の間ならどこでもよいのですが、日本語の「~以上(いじょう)」だと、せいぜい5200~5300ぐらいまで。中には、もう少し大きい数をイメージする人もいるかもしれませんが、少なくとも5900をイメージする人はいないのではないかと思います。
「時代華語1」の例を見ても、「多(duō)」の範囲の広さがわかります。
また、日本語の「~以上(いじょう)」には、「たくさんある・いる」という話し手の評価が加わっていますが、中国語の「多(duō)」にはそれがありません。
この「多(duō)」を、「~ちょっと、余り」と訳す人もいますが、それでもイメージできる範囲はかなり狭い。少なくとも「五千ちょっと/余り」から5500以上を想像する人はいないのではないかと思います。
なお、ネイティブの語感も人によって少し違いますが、「五千多」が少なくとも5500ぐらいまでは指せるという点は、一致しています。
TOCFLのリスニング問題には、以下のような対話もありました。
③今天是我第一次上中文課,老師教了語法和二十五個漢字。ー才上一次課,就學了二十多個漢字,不錯嘛!(B_vol.1_11)
この「二十多」は、直前の「二十五個」という具体的な数を聞いて出て来た言葉なのです。
中国語の「五千多」にいつでもぴったり合う訳というのはなかなかないのですが、少なくとも、「五千以上、ちょっと、余り」と訳すより、「五千数百」と訳した方が範囲のずれは少ないのだろうと思います(これでも5900は思い浮かべにくいのですが)。
(2019.8.14)