三八
sānbā/sam-pat サmバッ
ふざけた、おてんば、ばかね、水くさい
台湾ドラマを見ていると、それこそ1話につき1回くらい出てくるんじゃ?というほどの頻出スラング。意味はもともと「ふざけた、バカな、おきゃんな、オテンバな」といった意味の、主に女子に対する悪口。でも今は、女子から男子にも或いは性別にかかわらず、何なら人間に対してじゃなくても(笑)使われます。そして悪口成分はぐんと減少し、「なに水くさいこと言いよるの」「気にせんでよかとに」「ばかやねえ、もう♡」のようなニュアンが強め。そしてその場合は“三八啦(sānbā la)?”と、最後に“啦(la)?”がつくことも多いです。
語源については諸説あります。が、少なくとも台湾で使われている“三八(sānbā)”に関しては、台湾語の“三八(sam-pat/サmバッ)”由来でほぼきまり。萌典にはこう書かれています。
ただ“三八(sam-pat/サmバッ)”の意味も、普通の悪口「アホ」から、女子に対する悪口「おてんば」へ、という変化を経てきているようです。日本植民地期に出版された『台日大辞典』では女子への悪口という記載はなく、
三八(サム パッ)阿呆。剽軽。馬鹿。
三八話(サム パッ ヲエ)剽軽な話。馬鹿気た話。
三八猴(サム パッ カウ)馬鹿野郎。案本丹。剽軽者。
と説明されているだけ。一説によると、国際婦人デーがたまたま3月8日だったので、女子への悪口に変わってしまったとか。でも初めに言ったように、現在のスラング“三八(sānbā)”には悪口成分は極少なめ。例えば、
(1)2011年の台湾ドラマ『真愛找麻煩』では、主人公の宋奕婕(イージエ)が夫の柯偉翔(ウェイシャン)に向かって「ばかね♡」みたいな感じで使っていたし、2010年の『第二回合我愛你(君に恋した328日)』でも陳怡蓉ちゃんが宥勝くんに、2018年の台湾映画『台北暮色』では主人公の女の子が飼ってるインコに、優しく“三八啦♡ (sānbā la)”と言ってました。
(2)2016年の台湾ドラマ『滾石愛情故事』のep2では、
主人公が心配してくれてる電話の相手に「だいじょうぶよ、ホントだってばあ」みたいなカンジで使っています。
(画像はYouTube公視公式チャンネルからお借りしました)
(3)「第13回翻訳ミステリー大賞(2022年)」にも選ばれた話題のミステリー小説『台北プライベートアイ』でも。この小説、ハードボイルド探偵の物語なだけあって台湾語やスラングがたくさん!翻訳版でもそれがそのまま生かされている箇所も多く、この“三八”も例外ではありません。第16章で主人公の呉誠が酒代を出そうとしたら、友人の警官が「三八囉(サンバロー)(バカたれ)。おれのおごりだ。すわっててくれよ。」(p319/“三八囉”の部分には「サンバロー」というフリガナ)と言います。訳こそ「バカたれ」になってるけど、まさに「水くさいなあ」的な使い方ですね。
台湾語の“三八(sam-pat)”そのものの語源については諸説ありすぎ、難しすぎ、で今回は割愛します。どうしても語源の沼に足を踏み入れたいという方はご一報を!
※参考文献
『萌典 臺灣閩南語』
『台灣國語』(曹銘宗)聯經出版公司(1993)
『台語溯源』(亦玄)時報文化出版(1988)
『台日大辞典』(1983年に国書刊行会から復刻版『台湾語大辞典』として刊行)